home contacts
  プロジェクト |  シャチ |  写真&動画  |  資料集 |  フォーラム |  リンク集  


プロジェクト
調査研究
野外調査履歴
チーム
写真 & 動画
資料集
謝辞

Rambler's Top100
調査研究  
写真識別 | 社会構造 | 索餌行動 | 音響行動 | 遺伝学

 写真識別  わたしたちは1999−2005年の野外調査で300個体近くを識別しました。2002年と2003年の識別済み個体の再発見率は26%から36.4%に増加したの対し、新たな識別個体数は2002年38%(n=38), 2003年では17.4%(n=21)に減少しました。
わたしたちが識別した個体が、相当な広範囲を移動することを示す注目すべきふたつの事例は、写真識別によって明らかにされたものです。北太平洋の東側の本種についての知見同様、1000kmちかく移動(1999年と2002年の再発見例)すること、同一シーズンにおいても600km以上(2002年内の再発見例)することを確かめました。
 また、わたしたちは入手できる範囲で北西北太平洋のサハリン、千島列島、日本などで得られた資料も継続的に収集していますが、これまでのところわたしたちがカムチャツカで識別した個体との合致は一例も見出していません。

 社会構造   夏季のアバチャ湾での、わたしたちのシャチの群れとの全遭遇の87%は、この海域に頻繁にまたはしばしば現れる160頭ほどによって占められていることがわかりました。そしてこれらの個体との遭遇は、すべて離岸16kmの範囲で記録されました。
 これら160頭個々が、群れの別の個体とともに出現する頻度を解析したところ、おそらく母系単位に代表される、安定した群れで移動していることが示されました。鳴音の解析結果から、これらの群れはすべて同一の音響的同属=acoustic clan・「アバチャ・クラン」に属することがわかりました。

 わたしたちは「アバチャ・クラン」とは別に、この海域に1シーズンあたり1〜3回姿を現す群れも確認しており、「異属群」と呼んでいます。「異属群」のうち、これまで1度きりしか遭遇していない群れは解析から除いています。
 「アバチャ・クラン」とともに「異属群」が現れた観察例では、「アバチャ・クラン」の群れと積極的に相互干渉するものもあれば、交流、干渉しない群れもあり、後者はたいてい離岸13〜30km沖合いで遭遇しているため、「沖合い群」と呼んでいます。
 上述のすべての群れは、その外観形態、行動と音響行動の特徴が、北東北太平洋で定義されるところの「魚類捕食型=fish-eating ecotype」に相当するものです。このほか、わたしたちはまた北東北太平洋の「ほ乳類捕食型=mammal-eating ecotype」に似たシャチも観察しており、これらの群れは「魚類捕食型」の群れとともに遭遇することがありません。

 索餌行動   これまでわたしたちはいくつかの索餌行動様式を観察しています。例を挙げると、群れで魚群を取り囲み、その中央へ1頭づつ続いて潜水して行く「カルーセル(回転木馬)法」、索餌目標に定めた海域において、緊密な群れもしくは2〜5頭の小群で無秩序な潜水を行う方法などです。索餌行動は、日中平均して観察されましたが、11:00〜14:00に若干多く記録されました。

 2000〜2001年の目視観測の結果、シャチは各年アバチャ湾の同様の海域で索餌を行っていました。2002年に測量機器のセオドライトを用い、これらの箇所を緯度経度にプロットしました。わたしたちの観察においては、観察海域に出現したほかの海棲ほ乳類(ゴマフアザラシ Phoca largha ; トド Eumetopias jubatus ; マッコウクジラ Physeter macrocephalus ; ミンククジラ Balaenoptere acutorostrata ; イシイルカ Phocoenoides dalli )に対する攻撃や狩りは一切目撃していません。シャチとイシイルカの間での、異種間干渉は観察されました。
 2000〜2003年にわたしたちがアバチャ湾で観測した、のべ106個の群れについて分析したところ、群れサイズの範囲は1〜49頭(平均9.56頭)でしたが、ふつう6〜10頭で、これは北東北太平洋の本種の研究で知られるタイプでは、「ほ乳類捕食型(通過型)」よりむしろ「魚類捕食型(定住型)」の群れサイズに近いものでした。

 音響行動  わたしたちが観察しているシャチの群れは、水中録音中の多くの時間、盛んに鳴音を発していることがわかりました。鳴音には、それぞれ成り立ちの異なる「方言= discrete call」 とされる定型のコール、不定型のコール、ホイッスル音、そしてエコロケーションがあります。・
 わたしたちはカムチャツカのシャチの「方言」カタログを作成しました。異なるシャチの群れの「方言」の解析結果、アバチャ湾に8個の「魚類捕食型」の群れが経年現れることがわかりました。これらの群れは少なくとも1個の「方言」を共有しており、したがってこれらの群れは1個のクラン(音響的同属)と定義(Ford 1991)でき、わたしたちはこれを「アバチャ・クラン」と呼んでいます。
 時々わたしたちは、「アバチャ・クラン」と共通の「方言」をまったく持たないいくつかの群れにも遭遇しました。かれらの状態と関係については未解明です。未解明の群れのうち「K20クラン」についてはしばしば録音されていますが、ほかの2群「K32」と「沖合い群」の録音機会は乏しい状況です。
 さらに、上述の3タイプのどれともまったく異なる「方言」を持つシャチの群れと遭遇することもあります。記録ではシャチは5500kmにもおよぶ長距離を移動する(Guerrero-Ruiz et al., 2005)ため、まったく異なる「方言」の群れたちは、きっと遠距離移動の途中でアバチャ湾を通過したものなのでしょう。
 上述のすべての群れは、外部形態、行動および音響行動において「魚類捕食型」に相当します。

アバチャ湾で「海棲ほ乳類捕食型」と思われるシャチの群れの鳴音が録音されたのは、これまでのところ1度きりです。この群れのコールは、これまでアバチャ湾で録音されてきたほかのどの群れの「方言」とも異なりますが、北アメリカの太平洋岸で録音された「海棲ほ乳類捕食型」のコールに似ています(H. Yurk私信)。
この群れの録音中、「アバチャ・クラン」の「魚類捕食型」が発するコールが遠距離に響いていましたが、それに対する異邦のシャチたちの反応は目撃しませんでした。

 遺伝子解析   わたしたちの観測海域に現れる「魚類捕食型」シャチの多くは、DNA解析の結果、カナダ太平洋岸の「サザンレジデント」やアラスカ南東岸のとあるクランのように、「SRハプロタイプ」であることがわかりました。

 これまでの分析結果から、わたしたちはアバチャ湾に少なくともふたつの別個のシャチの個体群(=population)が出現すると考えています。すなわちひとつは「魚類捕食型」で、調査海域でなじみのある個体たちの社会生物学的特長が北アメリカで知られる同タイプと類似している――大きな群れでくらし、活発に鳴音を発し、ほかの海棲ほ乳類に餌生物としての関心を示さない――ことがわかりました。
 データ不足の現状、カムチャツカ半島全域のシャチの総個体数について言及するものではありませんが、北東北太平洋の「魚類捕食型」の独立した個体群サイズはたいてい300頭以下であることがわかっています。いまやカナダ太平洋岸の「サザンレジデント」は危急種に評価されており(Baird, 1999)、このことからもわたしたちは、カムチャツカ海域のシャチの捕獲行為は対象となる個体群の深刻な減少にむすびつくものと考えます。 
top